GRRMチュートリアル2016 Q&A概要      Q&Aの概要を以下に記します

2016年7月11日に行われたGRRMチュートリアルでのQ&Aの主な内容

Q:GRRM次期アプデートはいつでしょうか?
A:現在、開発者が用いているヴァージョンを皆様にもご利用いただけるようにするためには、マニュアルの整備をしっかりと行う必要がありますし、 ご利用しやすいよう、プログラムのさまざまな部分を整備する必要があります。このため、少なくとも本年末まではこうした整備に時間がかかる見込みです。 したがって、GRRM14の次のヴァージョンのリリースは、2017年以降となります。

Q:NRUNによるランダム構造は、どれほどランダムなのでしょうか。
A:NRUN=(個数)で指定した個数だけ、ランダムな構造を乱数で自動発生させています。
乱数での原子座標のばら撒き方は、各原子をばらばらにする指定の場合は、全原子の位置がランダムになります。原子をいくつかの部分(Part) に分ける指定(Part指定)をすると、各Part内の原子の相対位置を保って、並進や配向をランダムに変化させます。いずれにせよ、 自動発生させた乱数でばら撒いていますので、NRUNの個数指定を大きくするほど偏りなくランダムになるとみて差し支えありません。

Q:Gaussianプログラムで求めたTS構造をGRRMでIRCを実行できますか。
A:構造が精度よく求められているかどうかは、その求め方に依存しています。GRRMプログラムには、非常に精度よく構造最適化を行うアルゴリズムが 搭載されており、平衡構造最適化(MIN)に加えて、 遷移構造最適化(SADDLE)ができますので、他の方法で得た構造を出発点にしてTS構造の最適化を行うことができます。また、 GRRMプログラムには、最適化で得られたTS構造から、IRCを追跡する機能(IRC)が備わっていますので、それを用いれば、 IRCを追跡することができます。

Q:ECPやONIOMなどGaussianプログラムで設定できる計算条件で、GRRMで利用できないものはどれくらいあるのでしょうか?
A:Gaussianプログラムで許容されている計算条件の設定は、そのままGRRMプログラムの入力データで指定しておくと、GRRMプログラム中から Gaussianプログラムを利用するときにそのままGaussianプログラムに渡されますので、基本的に有効になると考えていただいてかまいません。 GRRMを用いて論文や学会で発表されているケースはもちろんOKです。それ以外でも、GRRMで利用しているデータの出力形式に変更がなければ、 うまくいく可能性はありますので、各ユーザの方々でいろいろお試していただくとよいと思います。

Q:溶媒効果を考慮しながら、反応経路を探索することは可能でしょうか?
A:電子状態計算プログラムで利用できる溶媒効果については、前のご質問ともからみますが、各ユーザでお試しいただくとよいと思います。 GRRMプログラムでは、溶媒分子をあらわに計算の対象として含めて取り扱うことができます。もちろん、扱う原子数が増えれば、 それだけ探索時間が増大しますので、現実的にどれだけ対応できるかは、計算レベルや計算環境に依存します。ONIOMとMicroIterationを利用して、 MM部分で溶媒を扱えば、溶媒分子数が数百といった大きな溶媒和系を扱うことも可能になっています。これまでに、 溶媒としての水分子100個に囲まれたホルムアルデヒドの反応経路の探索が試されていますが、溶媒分子で囲まれると、 溶質の構造変化の自由度が減少する傾向があって、溶媒和がない場合と比べて、むしろ反応経路の数が少なくなることが見出されていますので、 いろいろ試してみると面白いと予想されます。是非お試しください。

ほかにもいろいろ質疑応答がありましたが、当日のチュートリアルの資料をご覧いただいたり、 実際にGRRMプログラムをご利用されるときにマニュアルをご覧いただくことですぐに解決することについては、 ここでは省略させていただきます。

7月11日当日、時間の関係で、直接お答えできなかったご質問への回答!

Q:EQ,TS,MSXを探索するのにかかる時間の見積もり方は?
A1:(探索を始める前の予想)探索される対象によって、探索される個数は、かなり違うのが普通で、同じ原子数でも、 探索される個数が数百倍も変わることがありますので、予想は困難です。EQやTSでもそうですが、 さらにMSXになると励起状態のポテンシャルの微妙な交差がからむので、計算レベルを変えるとドラスティックに結果が変わることもあり、 ほとんど予想できないといって過言ではありません。どれだけ時間をかければ、どれだけの成果が得られるといった、いわば事務的な、 硬い作業計画が通用する世界とは、「未知のEQ.TS,MSXの探索」は、まったく別次元の世界であるといえましょう。 だからこそ、GRRMプログラムで系統探索を行う意義があります。悲観的にはならずに、楽観的に「宝探し」のような気分で、 存分に探索を楽しんでいただくことをお勧めいたします。
A2:(探索を始めてからの予想) 計算時間は、1つの安定構造(MSX探索の場合はモデル関数上のエネルギー極小点)周囲の探索時間の平均値×安定構造の個数となります。 これらを計算前に見積もることは困難ですが、計算を流して経過を見ると、ある程度予想することができます。 1つの安定構造の周囲の探索時間の平均値は、経過時間をこれまで探索した安定構造の個数(_sDONE.rrmというファイルに出ている構造の個数) で割った値になります。一方、安定構造の個数は、探索が進むと徐々に増えますが、その個数がどの程度まで増えそうか想定することで、 大雑把な計算時間の推定がつきます。いくつかの系への応用を通して経験をつむことで、その計算が使える計算資源で実行可能か、 もしくは非現実か、という判断がある程度できるようになります。

Q:計算コストのイメージがつかめません。今日出てきた蟻酸(HCOOH)の反応経路探索の例で、どのくらい時間がかかるのでしょうか?
A:未知の探索を行うとき、一般的な予想は困難であることは、上で述べました。もちろん、開発者らがこれまでに探索した経験のあるものについては、 具体的な探索時間はわかっています。蟻酸の場合、2006年の論文発表のために最初に東北大の研究室で行ったときは、数コア程度の計算機で数日かかりました。 計算レベルや計算環境に依存しますのですべてにお答えすることは不可能ですが、最近の例では16コアの計算機を用いB3LYP/6-31G*でのADDF によるH2CO2の全面探索が8時間ほどでできています。
実習では、ホルムアルデヒドH2COについてRHF/STO-3GでのADDFによる全面探索のJOB投入を体験していただきましたが、Gausssianプログラムの並列計算のコア使用数を1に制限し、 しかもGRRM並列探索のオプション指定を1に設定し、受講者22名および講師数名合わせて25個以上のJOBを投入しましたので、 JOBの終了がチュートリアルの時間内に間に合わないことになってしまいました。(後で確認したところ、5時間ほどで探索が終了しているケースがありました。) 最近行った例では、16コアの計算環境でH2COについて、計算レベルがB3LYP/6-31G*でも1時間半で探索が終了しました。

Q:どの程度の計算機があれば、現実的な時間で計算できるのでしょうか?
A:上のご質問とも関係しますが、探索に要する時間は、対象とする系や探索条件に強く依存します。 ここでは、GRRMプログラムを実際に利用して研究に役立てていただいているケースの計算環境がどの程度のものかをお知らせすればよいものと考えます。 現在リリースされているGRRMプログラムの場合、 市販されている科学計算用のLinux計算機(16コア以上の計算機)であれば問題なくご利用いただけます。 少し前の4コア機や2コア機でもご利用は可能ですが、8コアないし12コア以上の計算機をご利用されることが望まれます。 ADDFで多数の反応経路や構造を網羅的に調べるときのように、GRRMプログラムの並列探索機能をご利用になる場合は、 できるだけコア数の大きな計算環境ほど有利になります。一方。1点の周囲の探索や2点間の探索を行う場合には、 電子状態計算プログラムで通常利用される並列計算コア数と同程度(8コア程度以内)で十分です。

Q:ポテンシャル曲面上のごく浅い極小の場合でも、探索は進むでしょうか?
A:GRRMプログラムには、最高レベルの構造最適化アルゴリズムが搭載されています。(Gaussianプログラムは、 電子状態計算でエネルギーと勾配を求めるのに利用し、構造最適化はGaussianプログラムでは行わずにGRRMプログラム内で行っています。)このため、 一般の電子状態計算プログラムでは極小と判定できないケースでも、GRRMプログラムでは、精密に極小点として求めることができるケースが多々あります。 極小点の判定ができれば、その周囲をADDFで自動的に反応経路探索を進めます。計算誤差のレベルと同程度の変化しかないほとんど平坦な領域では、 どの電子状態計算プログラムでも、極小点の判定は不可能になります。GRRMプログラムでも、数値的な問題で極小の判定ができなければ、 平衡構造として認知できませんので、反応経路の自動探索の対象からはずれてしまいます。極小点として判定できさえすれば、 ファンデルワールスクラスターや非常に弱い力で結ばれた錯体でもその周囲の探索ができます。ただし、非常に浅い極小点は、計算レベルの影響により、 構造が大幅に変わったり、あるいは極小でなくなったりもしますので、探索結果の信頼性について、慎重な取り扱いが必要になります。

Q:チュートリアルで出てきたGRRMの適用例の文献情報を知りたいのですが?
A:チュートリアルに出てきた研究例のほとんどは、すでに論文として発表されております。すべての文献情報をここに示すのは、たいへんですので、 GRRMの文献リストをご紹介しおきます。GRRMプログラムのホームページ http://grrm.chem.tohoku.ac.jp/GRRM/の中に、GRRM文献リスト http://grrm.chem.tohoku.ac.jp/GRRM/category/Reference.htmlがあります。

Q:GRRMの原理やGRRMの入手方法の情報がほしいのですが?
A(1):「GRRMの原理」については、IQCEのホームページGRRMプログラムのホームページに、 「GRRM_Tutorial」というメニューがあり、その最初に、GRRM_Tutorial(1)基本アルゴリズム、というリンクがありますので、 そこをクリックするとGRRMの基本原理のうち、初期に開発されたADDFについて、解説されています。あとで開発されたAFIRも、 GRRMの基本原理のひとつですが、これについては、GRRM_Tutorialのメニューの(10)人工力誘起法(AFIR)のところに、その技術の基本が示されています。 AFIRのさらなる発展と応用ついては、上記のGRRMの文献リストをご参照ください。また、GRRMプログラムのホームページ(上記)には、 GRRMに関する情報が、多数貼り付けてありますので、適宜、ご利用ください。 上記のGRRM文献リストのページにある、 Citationランキングで上位に位置する論文に、本格的な説明が記載されています。
A(2):「GRRMの入手方法」については、GRRMプログラムのホームページの 中に、「GRRM概要」というリンクがありますので、 そこをクリックして、「GRRM概要」 のページをご覧になれば、いろいろな情報がまとめられています。

Q:Error terminationの例と対処法及びRestartの方法を教えてください。
A:Gaussianプログラム(など)の電子状態計算で生じるERRORによってジョブが停止するときは、異常を知らせるERROR, STOP, ENDなどの文字列を含む ファイル名の・・・.rrmファイルが出力されます。このような名称のファイルが現れたときは、電子状態計算プログラムへの入力データ「.com」(注: 最初にユーザが投入する入力データの.comファイルではなく、GRRMが電子状態計算プログラムへの入力データとして逐次自動生成する.comファイル)やログ「.log」 (Gaussianプログラムでは、・・・_GauJOB.com、・・・_GauJOB.log、 MolProでは・・・_MolJOB.com, ・・・_MolJOB.out_0)を参照して、 原因を調べる必要があります(異常停止した場合は、必ず直前の.comファイルが残っているはずです)。 こうした電子状態計算プログラムで生じるerrorへの対処は、それぞれの電子状態計算プログラムをGRRMプログラム と関係なく用いたときに発生するerrorへの対処と同様ですので、各電子状態プログラムについてのerrorへの対処法の解説を参照していただくことが基本です。
errorの原因を突き止めて、入力データ「.com」の修正ができたら、GRRMプログラムを自動停止させるファイル(message_ERROR.rrm, message_LinkError.rrm, message_END.rrm, message_STOP.rrm)を手作業で消去してから、GRRMの起動コマンドのGRRMpを投入すると、自動的に電子状態計算プログラムを起動するところから、 再開できるようになっています。また同様のerrorが出て停止してしまう場合は、「.com」の修正の仕方を再検討する必要がありますが、 errorが出ないで継続される場合は、GRRMプログラムが無事再開された可能性が高いのでそのまま成り行きを見守るとよいでしょう。

Q:Inputファイルや出力例のlogファイルを公開していただけないでしょうか?
A:GRRMプログラムの使い方は、非常に多様ですので、入出力データの例を整備して公開するのは、とても困難な作業になります。 GRRMプログラムの正式ユーザーには、GRRMプログラムの利用法のマニュアルが配布されます。各JOBタイプについて、 それぞれ入力データの例が示されています。まずは、その通り、入力データを作成して、試してみると、どのくらい時間がかかるか、 わかりますし、出力されるファイル群の例が得られます。各ジョブタイプには、いろいろなオプションがありますし、適用する系や、 電子状態計算レベルなど、各自のニーズに合わせて、いろいろ試してご覧になることをお勧めいたします。ただし、系のサイズを大き くしたり、計算レベルを高くしすぎると、JOBタイプによっては、すぐに結果が出て来ず、いつまでたっても終わらない というようなことになってしまいますので、小さめの系で低いレベルからお試しください。
配布されるPDFから、その中の入力データをテキストとして取り込むには、PDFリーダーのツールを使うか、 WORDファイルなどに読み込む方法がありますので、適宜、ご利用ください。その際、やり方によっては、余分な改行が入ったりしますので、 体裁がくずれていないか、注意する必要があります。
たくさん入出力の例が公開されて、それをそのまま試したり、手直しして使ったりできれば大変便利なことは確かですが、 GRRMを使いこなすには、マニュアルにある入力データの例を、よく分析して、そのジョブタイプの入力データの作り方を、 しっかりとマスターすることが大切です。最初のうちは、使い慣れるまでたいへんですが、なんどか試すうちに、 いろいろな使い方ができるようになります。

以上のほか、各質問者に固有なご質問がありましたが、それらについては、直接、各質問者に回答を電子メールで行うことといたしました。