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量 子 物 理 化 学 概 要
まえがき(抜粋)
20世紀の幕開けとともに量子論が誕生し、この1世紀の間に物質の世界の基本に関する
謎が次々と解き明かされてきた。それに伴い、物質の構造・性質および変化の多様性を、量
子論に基づいて解明し追求しようとする物質科学の新しい局面が、華々しく切り開かれつつ
ある。ところが、現行の大学教育においては、主として時間的な制約によるのだが、このよ
うな新しい展開にふれる余裕はなく、また、量子論すらも皮相的な導入にとどまらざるを得
ない場合が少なくない。このような状況を抜本的に打開し、21世紀の新展開の礎を築くた
めには、従来よりも遙かに効率のよい教育体制および講義内容を検討する必要があるように
思われる。
本書は、物質科学における量子論的・分子論的アプローチの基礎を、原子・分子および分
子集団の構造論に重点をおいて新たに体系化し、「量子物理化学」の教科書または参考書と
してとりまとめたものである。化学基礎論または物理化学概論の構造論で学ぶべき内容を中
心に、根底からの把握と発展的な理解および応用力の増進につながる基礎事項を、量子化学
概論または量子力学概論および構造物理化学の内容から精選して導入し、「量子物理化学」
として全体を再編成した。その結果、従来より理論と実験の繋がりが格段に向上し、系統的
に能率よく学ぶのに都合のよい科目構成が実現された。
本書では、物理化学概論の構造論を一通り学ぶことができるが、さらに、量子力学概論や
構造物理化学の内容も学ぶことができ、さらに、物性物理化学、反応物理化学、有機量子化
学、無機量子化学と関連する重要な教材を取り入れてあるので、物質科学の新しい展開に必
須の基礎事項を効率よく学ぶことができる。
本書は、このように多角的教科書・参考書の性格を合わせ持つが、さらに学習効果を確認
し、応用力を涵養するための演習書としての機能も備えている。基礎事項の把握度を簡便に
チェックするための問題[☆]、基本概念の理解を一段と深め、応用力を能率よく身につける
ための問題[☆☆]、発展的理解の促進と応用力の飛躍的増強のための演習問題[☆☆☆]の3
段階に分けて、各章末に多数の新作問題を配置し、巻末に懇切な解答・解説を付した。これ
らの問題に気軽にアタックし、解答・解説を楽しみながら読み、本文に立ち帰ることを繰り
返すうちに、自ずと、より広く、より深く、量子物理化学が学習され、さらに最先端の領域
へと進む自信と希望が涌いてくるであろう。
本書の執筆に当たっては、東京大学および東京農工大学での9年間にわたる講義とゼミナ
ールの経験を踏まえ、量子物理化学の基礎事項がどのような数理と事実によって導かれたか
が明らかになるよう特に留意し、また、物質科学の最新の動向にも沿うものとなるように努
めた。本書が、21世紀を担う若人達の糧となり、未知の世界の開拓に些かなりとも貢献す
ることができるならば望外の喜びとなるであろう。(1988年10月)
もくじ(概要)
1 量 子 論
1.1 エネルギー量子
1.2 粒子性と波動性
1.3 波動方程式
1.4 量子力学の基本法則
1.5 角運動量
2 原 子
2.1 水素様原子
2.2 多電子原子
2.3 電子スピンと排他原理
2.4 原子の周期構造と電子配置
2.5 スペクトル項
3 量 子 論 の 方 法 - 方 法 論
3.1 変分法とSCFオービタル
3.2 摂動法と遷移確率
3.3 断熱近似
3.4 分子軌道法
4 分 子 - 分 子 軌 道 論
4.1 水素分子イオン
4.2 Huckel MO法(HMO法)
4.3 分子軌道の組立て原理
4.4 分子構造の定性的な組立て
4.5 π電子共役系
4.6 AHn型化合物
4.7 二原子分子
4.8 反応性
5 分 子 - 微 視 的 性 質 の 観 測
5.1 質量と質量分析
5.2 速度と速度の分布
5.3 回折法と分子構造
5.4 各種のモーメントと分子構造
5.5 振動スペクトルと分子振動
5.6 電子スペクトルと電子励起状態
5.7 電子分光法と分子軌道
6 分 子 の 集 団
6.1 van der Waals力
6.2 分子間の結合と吸着
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