l-ADDf解析        非調和下方歪(ADD)の性質を活かし、大きなADDに着目することで、探索を超高速化

低エネルギー構造の優先探索       化学反応の特徴を考慮した超高速探索の実現

 GRRMプログラム搭載された基本アルゴリズムADDf-SHS法によって、各平衡構造の周囲の反応経路を 自動探索することができるようになりましたが、すべて漏らさず調べようとすると、かなり時間がか かってしまいます。化学の問題の多くに必要な情報は、エネルギー的に低い構造(EQやTS)です。 そこで、高エネルギーの構造を求める手間をできるかぎり省略し、低エネルギーの構造だけを優先的 に求める方法が望まれます。それを実現するたいへん効果的な方法として、l-ADDfアルゴリズムが開 発され、GRRMプログラムに搭載されて、現実的に重要な化学の問題の解決に威力を発揮しています。
 l-ADDfの理論的根拠は非常に簡明です。上の図に示したように、1つの平衡構造EQ0 から別な平衡 構造EQ1やEQ2に至るポテンシャル曲線は、エネルギーの低いEQ2の方が、途中のエネルギーも低くなる のが普通です。このような傾向があることは、生成物の安定性とTSの位置の関係について知られる 「Hammond仮説」や生成物の安定性とTSの高さの関係について知られる「Bell-Evans-Polanyiの原理」 がよく成り立つことが多いことから明らかです。したがって、「大きなADDを示す経路ほど、TSが近く に現れ、TSやその先のEQのエネルギーが低くなる」という「Large ADD 原理」を採用して、大きなADD をもつ反応経路だけを優先的に探索するlarge ADD following法(l-ADDf)が考案されました。SHS法の 出発点となるEQから大きさが何番目のADDまでを追跡の対象とするかをLADD=n(n番目までを追跡対象 とする)というオプションパラメータで設定して探索を進めることで、全面探索を行う場合と比べて、 探索に要する時間を飛躍的に短縮することができます。

l-ADDfのパフォーマンス

 l-ADDfアルゴリズムを用いることによって、どの程度計算時間が短縮するか、調べた例を下図左に 示しました。3つの化合物に適用した結果で、ばらつきもありますので、一般にこれと同じになるとは いえませんが、傾向はつかめます。オプションパラメータLADD=nのnの値を小さくすると、全面探索 (full ADD法:f-ADDf)と比べて計算時間が大幅に短縮されていくようすがわかります。LADD=4程度で、 計算時間は全面探索の10分の1程度にまで縮まります。
 時間が短縮されることはよいとして、探索される構造の数も減って行きます。下図右は、全面探索 に対する計算時間が何%のときに、全面探索の場合と比べた探索率が何%になるかを、EQとTSのそれ ぞれについて示したものです。EQについては、探索時間が10分の1に短縮されても、全体の80% 程度が探索されることがわかります。EQ,TSどちらの場合も、エネルギーの低い構造が優先されること は、上に示したLADD法の根拠から明らかですが、実際にl-ADDfで探索した結果を全面探索の結果と比 べてみると、確かにエネルギーの低い構造が優先的に見つかっていることがわかります。TSの場合、 全面探索と比べ10分の1の時間では40%程度しか探索されませんが、エネルギーの低いTSは確実 にカバーされており、一番エネルギーの低いTSはもちろんのこと、それに匹敵する低エネルギーのTS はほとんど漏れなく探索されるので、実用的にはLADD=4程度で重要なEQやTSの探索には十分対応でき ると考えてかまいません。より慎重に探索したいときには、かけられる時間との兼ね合いで、適切な LADDのパラメータ値を選ぶとよいでしょう。