SHS法(球面拡大法)        SCW法(球面縮小法:中間体探索法)

反応中間体解析        超球面を縮めることで、反応物と生成物を一気に結びつけ、中間体を暴き出す

多段階反応の中間体が調べられる       反応中間体をすばやく拾い上げるSCW法

 目的の物質と出発物質(原料)との間を結ぶ反応経路が1つの素反応で結ばれるケースはまれで、多く の場合、何段かの素反応を経ます。その途中でどのような反応中間体を経るのか、反応の段数が多く なるほど、途中の中間体を調べるのは、一般に難しくなります。
 GRRMプログラムには、多段階反応の中間体を簡単に見つけ出す、非常に強力な方法(SCW法)が搭載 されています。それは、GRRMの基本アルゴリズムの1つである超球面探索法SHSを応用したものであり、 他の手法にはない、非常に優れた特色となっています。
 SHS法では、1つの平衡構造EQを中心にした超球面を用いて、中心から外側に向かって超球面のサイ ズを拡大しながら探索を進めます(上図左)。多段階反応の途中を調べる中間体解析では、目的物質 が既に与えられているので、最初から球面のサイズをその目的物質が球の表面に位置するように設定 することができます(上図右)。そうしておいて、球面のサイズを縮めていくと、球の中心に位置す る出発物質まで素早く反応経路をトレースすることができます。これが、球面縮小法SCWとよばれる もので、球面を拡大する場合は、一般に多数の経路が出てきてその1つ1つを丹念に追いかけるので 時間がかかりますが、球面を縮小する場合は、目的物質と出発物質を結ぶ1つの経路を追跡するだけ なので、非常に簡単に中間体を探索することができます。ここで、SCWでは途中のTSを求めることを省 いていますので、その点でも球面を拡大するSHS法とは比べものにならないぐらい高速化しています。
 ここで、出発物質R、目的物質Pの間に、中間体として、MとNがみつかったとしましょう。
     R → M → N → P
そのとき、R→M、M→N、N→Pは、それぞれ素反応(1つのTSで結ばれた反応)であるとは限りません。 球面縮小法では、RとPの間をまっすぐに結んで調べるため、それと垂直な方向に大きくずれた反応経路 上に位置する中間体は見逃されてしまうことがあるからです。このような取りこぼしは、中間体探索で みつかった隣同士、上の例では(RとM)(MとN)(NとP)のそれぞれ間に、再びSCW法を適用し、さら に中間体探索を行い、その結果をもちいて隣同士のSCWを反復し、さらに中間体が出てこなくなるまで 続けることで、完全に解消することができます。
 SCWでは中間体をみつけるだけでその間のTSは見つかりませんが、まったく心配いりません。中間体 どうしの間に余分な中間体がないところまで中間体探索を徹底したあとで、隣あう中間体どうし(もし くは中間体と両端のRやPと)の間に存在するTSは、球面を縮小しながら2点間のTSを決定する2PSHS法で 簡単に求めることができます。2PSHS法もGRRMプログラムに搭載されている非常に優れた方法で、他の TS探索法ではみつからない場合でも、確実に2点間のTSを見つけてくれます。

中間体解析の例: C20クラスターの中間体解析

 中間体解析の例として、非常に大きく構造の異なる円環状C20とかご状C20の間の中間体を調べた例を とりあげてみましょう。円環状のC20は、等間隔のCC結合が次々に連なった形をしています。これに対し て、かご状(フラーレン型)のC20は、五角形でとり囲まれた立体的な形をしています。大幅に結合の 組み替えを行わないとこの2つの構造が結ばれないことは明らかです。このような大きく構造の異な るもの同士の中間体を調べることは、他の方法では全く不可能でしたが、GRRMプログラムに搭載された SCW法を用いると簡単に調べることができ、下の図のように、35個のTSを経る非常に長い多段階反応経 路がみつかりました。下の図では、中間体の一部しか構造を図示していませんが、中間体35個全部の構 造およびそれらを結ぶ35個のTSの構造、さらにそれを結ぶ反応経路に沿って20個の炭素原子が立体的に どのように移動して反応が進むかが明らかにされました。
 このように、GRRMプログラム搭載のSCW法、2PSHS法を用いると、出発物質と目的物質の構造がかなり 違っていても、それらを結ぶ反応経路や中間体を調べることができます。