GRRMの基本アルゴリズム        定説を覆し、不可能を可能にして、未知の世界の扉を開く

GRRMの基本アルゴリズムには、最初に開発されたADDfollowing(ADDf)と後で開発されたAFIRがあります。ここではADDfについて解説します。 AFIRについては「(10)人工力誘起法」をご覧下さい。

ADDfollowing:非調和下方歪追跡     反応経路の方向を指し示す「羅針盤」の発見!

 すり鉢の底のようなポテンシャル極小点EQからどの方向に反応経路がつながっているかを知ること は理論化学者のチャレンジをことごとくはねつける難問でほとんど解決不可能と思われていました。こ のことは計算化学の国際的教科書Introduction to Computational Chemistry(F.Jensen著 1999年) に記されています。
 この難問を解く鍵は、2002年の夏、東北大学(仙台市青葉区)で発見されました。ポテンシャルの非調 和下方歪ADDが反応の進行方向を示す羅針盤の働きをすることがわかったのです。上図左のように、結合 が切れて解離する反応EQ→DCでも、結合が組替えられる反応EQ→TS→EQでも反応が進むにつれて実際の ポテンシャル(赤)は、EQを中心とする放物線(調和ポテンシャル:青)より下にずれて行き、非調和下方歪 ADDが発生します。どの教科書にも載っている典型的なポテンシャル曲線の特徴から「非調和下方歪ADD の大きな方向が反応経路の道筋を指し示す」ことがわかりました。

SHS:超球面探索  調和ポテンシャルの非等方性を補正してADD極大方向を見つける裏ワザ

 ポテンシャルの極小点EQからエネルギーの低い方向を優先すれば反応経路をたどって反応の遷移状態 TSに到達できそうに思えます。ところが、このアイデイアでは失敗に終わります。EQで基準振動解析す ると明らかになりますが、一番エネルギーの低い方向は、結合角の変化や環の変形や内部回転などで結 合の切断や組替が起きる化学反応とはまったくほど遠い方向なのです。失敗せずにポテンシャルの底か ら反応経路をたどることは、ポテンシャルの非調和下方歪ADDに着目することで可能になりました。
 EQの周りで求められる基準座標に沿って、いろいろな基準振動モードが存在しますが、低い振動数の モードの方向は広がった(ゆるやかな)放物線になり、高振動数のモードの方向は逆に尖った(急な)放物 線になります。非調和下方歪ADDの大きさを正しく見積もるには、方向によって放物線(調和ポテンシャ ル)の形の違いが邪魔になります。この問題は、基準座標を、振動固有値の平方根でスケールした新しい 基準座標(Scaled Normal Coordinate)に変換すれば、簡単に解決します。このようなスケーリングを導 入することで、調和ポテンシャルの値が等しい等高面は、EQからの距離が正確に等しい、すなわち、ま んまるな超球面になります。そこで、このようにしてスケールした超球面上での実際のポテンシャルを 調べると、ADDが大きいところでは、エネルギーが下がるため、スケールした超球面上にエネルギー極小 点を与えることになります。
 そこで、上図右に示したように、超球面のサイズを拡大しながら、このような極小点を内側から外側 へとたどって行けは、EQの周りに存在する反応経路をすべて追跡することができます。これがGRRMプロ グラムに搭載されている超球面探索(Scaled Hypersphere Search: SHS)法です。このSHS法が誕生したこ とで、ポテンシャルの極小点EQからその周囲の反応経路を自動的に探索することが可能になりました。 大野・前田により開発されたこの方法の最初の学会発表は2003年、最初の論文発表は2004年に行われ、 その後さまざまな改良が加えられ、GRRMプログラムの開発が進められています。

Global Reaction Route Mapping(GRRM): 反応経路網全面探索  全面自動探索の実現!

 ADDfに基づくSHS法を用いると、各EQの周囲の反応経路をたどってTSに達っし、さらにその先にEQを見 つけ、また新たなEQの周囲の反応経路探索を繰り返すことで、反応経路網の全貌を探索し尽くすことが できます。
(0)まず適当な初期構造(乱数で発生させてもよい)から構造最適化を行って1つのEQを求めます。
(1)得られたEQから、ADDfで反応経路に沿って登坂し、その周囲の全ての反応経路を見つけます。
  解離(DC)する場合もありますが、多くは遷移状態の構造(TS)に到達します。
(2)みつかった各TSからその先へIRCに沿って降りていくと、解離DCするか平衡点EQに到達します。
(3)みつかった各EQについて、その周囲の探索(1)(2)を繰り返します。
(4)周囲の探索(1)をまだ行っていないEQが1つも存在しない状態になったら、探索を終了します。
 これは、反応経路網の全面探索を行うGRRMの基本アルゴリズムです。そのフローチャートを下の左側 に示しました。下の右側の図は、どれか1つのEQから出発して、EQ-TS-EQの連鎖をたどって得られる反 応経路の全体像の模式図です。GRRM法は、このような反応経路網の全貌を自動的に探索することを初め て可能にしました。